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【第17話】後藤実基、もう一人の与一も推薦…義経の名参謀(2022年9月17日 投稿)




水野先生コラム:17回目

ライター:『鎌倉殿と不都合な御家人たち 「鎌倉殿」の周りに集まった面々は、トラブルメーカーばかり?』(まんがびと)『小山殿の三兄弟』(ブイツーソリューション)、『藤原秀郷』(小学館スクウェア)著者・水野拓昌



那須与一が扇の的を射た名場面で、源義経に与一を推薦したのが後藤実基(さねもと)です。後藤氏も藤原秀郷の子孫、秀郷流藤原氏の流れ。後藤実基は源頼朝、義経の父・源義朝に従って平治の乱(1159年)を戦った古つわ者でもあります。個性的な面々が揃う秀郷流藤原氏を代表する武士なのです。








■ 「小兵ながらも」コントロールでは那須与一


屋島の戦い(1185年)が夕暮れとなって一時的に休戦となったとき、沖から一艘の小舟が漕ぎ出てきました。美しい女官が棹を立てその先に扇を掲げています。「射てみよ」という平家側の挑発です。

『源平盛衰記』では、義経は最初、畠山重忠に扇を射るよう命じますが、重忠は脚気を理由に断り、代わりに那須兄弟を推薦。ところが、那須十郎は一ノ谷の戦いで崖から急滑降した際に肘を負傷し、いまだに手が震えているとして辞退し、弟の与一が登場するという込み入った筋立てになっています。

『平家物語』では、義経に諮問された後藤実基が与一を推薦します。

「上手の者、いくらでもおります。中でも下野国住人、那須太郎資隆の子、与一宗隆こそ、小兵ではありますが、優れた者です」

「証拠はいかに」

「飛ぶ鳥を落とす〈かけ鳥〉にても、三つに二つは射落とします」

「ならば、与一を召せ」

百発百中じゃないのか、とツッコミたくなりますが、飛ぶ鳥3羽中2羽を射落とすのはかなりの高打率。与一の妙技は後藤実基の眼力の確かさを証明しました。


■遠矢ではパワーヒッターの与一を推薦


屋島の戦いに続く壇ノ浦の戦いでは、序盤、源平の遠矢合戦となりました。渚に立っていた和田義盛は海上の平家の船に向かって矢を放ち、「その矢を返していただきたい」と挑発。すると、敵が射返した矢が和田義盛の後ろに控えていた兵に突き刺さります。和田義盛の親類である三浦一族から「和田小太郎は自分以上の遠矢を射られる者はいないと思って恥をかいたぞ」と笑われました。

そして、義経の船にも平家側から矢が撃ち込まれ、「その矢を返していただきたい」。

和田義盛の挑発をまねた仕返しです。

義経は後藤実基を呼んで、「味方に射返せる者はいるか」と尋ねます。実基は「甲斐源氏の浅利与一義成(浅利義遠)殿こそ」と即答。

浅利義遠の矢は「矢を返せ」と言った敵兵の胴体に命中。ばったり倒れました。

コントロールなら那須与一、長距離砲なら浅利与一。適材適所を見抜いた後藤実基の確かな人選です。

浅利義遠は武田信義、安田義定といった甲斐源氏有力者の弟。建仁の乱(1201年)では捕らえた敵の女武者・板額御前を妻に迎えています。なお、那須与一、浅利与一(浅利義遠)、佐奈田与一(佐奈田義忠。岡崎義実の嫡男で1180年の石橋山の戦いで戦死)を源氏の三与一といいます。


■平治の乱後、頼朝の姉妹・坊門姫を養育


後藤実基は生没年不詳ですが、義経に従って源平合戦を戦った1185年ごろは養子・基清も従軍し、孫も生まれています。

源平合戦では義経の側近として活躍し、屋島の戦いでは養子・基清とともに平家陣営に攻め入り、平家の兵が退却すると、城塞を焼き払って勝利を決定づけました。

また、後藤実基のエピソードとしては頼朝の同母姉妹である坊門姫養育が挙げられます。平治の乱の敗走中、源義朝が実基を呼び寄せます。

「お前に預けた姫はどこにいる」

「ひそかに隠してある女に十分世話するよう命じていますので心配はありません」

「お前はここから都に帰り、姫を育て、義朝の菩提を弔わせろ」

源義朝は自身の結末を覚悟しているかのような言い方。後藤実基はともかくも最後までお供をしたうえで都に戻る意思を示しますが、源義朝は「考えるところがあるのだ。早く早く」と実基を急かして都に戻らせました。

姫は六条坊門烏丸の家で育てられた坊門姫。系図では頼朝の同母姉妹。『吾妻鏡』には、1190年に46歳で死去したとあり、1145年生まれで頼朝の2歳上の姉。一方、『平治物語』諸本の一部に平治の乱(1159年)のとき6歳とあり、1154年生まれで頼朝の妹となります。どちらかが正しいか分かりません。

姫は後藤実基の養育で都に隠れ住みながら平家の追及を逃れ、一条能保の妻となります。源氏の時代になると、一条能保は源氏派有力公家として活躍し、この縁で後藤実基の運も開けるのです。







【次回のコラムも乞うご期待!】


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