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【第15話】義経が馬を引いた日に起きた重大事件(2022年7月19日 投稿)




水野先生コラム:15回目

ライター:『鎌倉殿と不都合な御家人たち 「鎌倉殿」の周りに集まった面々は、トラブルメーカーばかり?』(まんがびと)『小山殿の三兄弟』(ブイツーソリューション)、『藤原秀郷』(小学館スクウェア)著者・水野拓昌



1181年(養和元年)7月20日、鶴岡八幡宮社殿の上棟式のことです。源頼朝が異母弟・源義経に馬を引かせました。これは頼朝の義経の関係性を考える上で興味深いできごとですが、この日はもう少し重大な事件が起きています。そこで活躍するのが小山3兄弟の従兄弟・下河辺行平です。






■「義経を特別扱いしない」頼朝の狙い



まず、頼朝が義経に馬を引かせた一件ですが、頼朝は義経に大工の棟梁に褒美として与える馬を引くように命じます。義経が「あいにく、下手を引く者がいません」と渋ると、頼朝は怒りを露わにします。

「畠山重忠、佐貫広綱がいるのだ。どうして、ふさわしい者がいないと言うのか。役目を卑しいものだと思い、あれこれ言って渋っているのか」

義経は2頭の馬を引き、1頭目は下手を畠山重忠、2頭目は佐貫広綱が務めました。ほかの馬もそれぞれ何人かの御家人たちが引きました。 義経としては、自分とペアになる者が源氏一族といった特別の地位の者ではなく、一般の御家人だったことに驚き、不満だったのかもしれません。一方、頼朝としては、義経をほかの御家人と同列に置き、弟といえども特別扱いしない姿勢をはっきりさせたかったのです。

馬を引かせる役目そのものも家来の一人という扱いです。 義経が奥州から駆け付けたときは感動的な対面をしましたが、一方では冷徹に対応し、立場の違いを明確にしています。このできごとは頼朝と義経の対立の兆しと捉えることもできます。






■下河辺行平、不審な7尺男を逮捕



本題はこの後。この直後にもう少し重大な事件が起きますが、残念ながらスルーされていることが多いようです。

儀式後、退出する頼朝の背後に、お供の人々に交じって7尺あまり(210センチ超)の男が近寄ってきます。 不審者です。この7尺男を捕らえたのが下河辺行平。 男を取り調べると、直垂(ひたたれ)の下は鎧。髻(もとどり)には「安房国故長狭六郎常伴の郎等左中太常澄」という札を付けていました。

男は左中太常澄。前年、安房に逃れた頼朝を襲撃しようとして、逆に三浦義澄の返り討ちに遭った長狭常伴の家来で、その復讐を企てていたのです。

「是も非もない。斬首にされよ」

左中太常澄は覚悟を決めますが、下河辺行平はさらに問い詰めます。

「斬首にするのは当然だ。だが、(暗殺を企てた)その理由を(頼朝が)お知りにならないと、おぬしも甲斐がなかろう。早く白状しろ」

「昨年、主人(長狭常伴)が討たれ、家臣も没落した。恨みを晴らす機会を狙っていたのだ。そして、死骸をさらしても、わが名を知らせるため札を付けていたのだ」

何と、名刺を持ったテロリスト。 万に一つも生きては帰らぬ覚悟で鎌倉に潜入していたのです。




■殊勲の下河辺行平が望んだ褒美は?



最悪の事態が回避されました。感心した頼朝は、下河辺行平に何を褒美に望むか尋ねますが、その回答がまたスマートでした。

「大した望みはありませんが、毎年の貢馬の負担を領民が案じていることでしょうか」

「勲功を挙げた武士が望むのは所領か官職だ。異例だが、すぐにかなえよう」

暗殺を未然に防ぐ大手柄を挙げても欲張らず、領民思いの面をみせるとは、ちょっと格好つけすぎですが、下河辺行平は、大男を取り押さえて勇猛さをみせ、頼朝との受け答えではクレーバーさをみせました。

義経が馬を引いた日に頼朝暗殺未遂事件があり、下河辺行平が見事にテロリストを逮捕する劇的シーンもあったことをぜひ覚えておいてください。








【次回のコラムも乞うご期待!】


▼前回【第14話】のコラムを見る▼


















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