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【第14話】隆盛極めた藤姓足利氏の思わぬ転落(2022年7月14日 投稿)




水野先生コラム:14回目

ライター:『鎌倉殿と不都合な御家人たち 「鎌倉殿」の周りに集まった面々は、トラブルメーカーばかり?』(まんがびと)『小山殿の三兄弟』(ブイツーソリューション)、『藤原秀郷』(小学館スクウェア)著者・水野拓昌



これまでの連載で、源頼朝の信頼厚い御家人として小山3兄弟の活躍などを強調してきましたが、平家全盛期に下野で最有力の武家だったのは藤姓足利氏です。以仁王挙兵(1180年)の際は、若武者・足利忠綱が一族や配下の武士300騎を引き連れて宇治川を渡河する活躍が『平家物語』(巻4「橋合戦」)にも生き生きと描かれています。





■「一国の両虎」…野木宮合戦で決着


なお、足利氏といっても、後に足利尊氏を輩出する源氏の足利氏(源姓足利氏)ではありません。藤姓足利氏は、小山氏と同じ藤原秀郷の子孫です。

野木宮合戦の際、『吾妻鏡』(1181年閏2月23日)は小山氏と藤姓足利氏を「一国の両虎」と書きますが、このころようやく小山氏が藤姓足利氏に追いついてきたか、あるいは鎌倉幕府側からのひいき目で書かれているとみるべきでしょう。 『吾妻鏡』は鎌倉幕府の視点で書かれた歴史書ですので。

小山氏は3兄弟の父・小山政光が1代で急成長させ、頼朝に味方したために繁栄しました。平家の有力家臣だった藤姓足利氏はその逆。平家全盛期は隆盛を極めましたが、滅亡する平家と運命をともにしたのです。

野木宮合戦では足利忠綱が志田義広に味方し、敗退。この合戦に勝利した小山氏との力関係は大きく逆転したのです。





■第一の腹心・桐生六郎の裏切り


野木宮合戦敗退後の1181年(養和元年)9月、藤姓足利氏は頼朝から攻められます。 標的は足利俊綱(足利忠綱の父)。頼朝の命令で鎌倉を出陣したのは主将・和田義茂(和田義盛の弟)と副将・佐原義連(三浦義村の叔父)、葛西清重、宇佐美実政ら。前回、紹介した頼朝のご寝所警護、いわゆる親衛隊の面々です。

ところがところが。 足利俊綱は、和田義茂の下野到着前に斬られました。 第一の腹心、桐生六郎が裏切ったのです。

主人・俊綱を斬首して出頭。しかも、俊綱の首を和田義茂に差し出さず、自ら鎌倉に持参すると言いました。

鎌倉まで俊綱の首を持ってきた桐生六郎は、梶原景時を通じて御家人にしてほしいと申し出ます。しかし、頼朝は「全く称賛に値しない」と桐生六郎の処罰を命じました。

実は、このパターンは奥州藤原氏が滅ぶ際も全く同じなのです。

藤原泰衡の腹心・河田次郎は逃走中に泰衡を斬り、その首を持って出頭しました。しかし、河田次郎の行為は頼朝に嫌悪され、結城朝光によって斬られます。




■不名誉な悪役・桐生六郎の真意は?


第一目標である敵将の首という大きな土産があったとしても、頼朝が裏切り者を許さないのは、父・源義朝の最期と関係しています。源義朝は平治の乱で敗退後、第一の腹心・鎌田正清のしゅうと・長田忠致を頼り、尾張・野間(愛知県美浜町)で敗走中の宿を取りました。

ところが長田忠致、景致父子は義朝に風呂を勧め、無防備のところを殺害、婿・鎌田正清の首ともども平家に差し出したのです。

桐生六郎の行為を頼朝が嫌悪するのも当然で、悪役としてクローズアップされるわけですが、これでは桐生六郎の立場がありません。

桐生六郎は本当に卑劣な裏切り者だったのでしょうか。

桐生六郎は野木宮合戦後、足利忠綱を西国に逃がしています。また、桐生六郎死後、頼朝は藤姓足利氏の所領を押収しますが、桐生の者も含めて降参した藤姓足利氏の一族や家臣の殺害、私邸の没収を禁じました。

当主・足利俊綱を犠牲にしてでも頼朝の憎悪を桐生六郎自身に向けさせ、跡継ぎ・足利忠綱を生かす道、一族や家臣が生き残る道を探った……、そんな究極の選択だったのではないでしょうか。頼朝に完全に敵対してしまった藤姓足利氏の家を残すのはほぼ不可能な状況で、活路を見出すには相当思い切った手を打つしかないと思い極めたのです。

桐生六郎は実名も系図上の地位も不明ですが、足利に隣接する桐生の地を所領としていた藤姓足利氏の一族の一人、つまり、藤原秀郷の子孫だった可能性があります。

その後の足利忠綱の動向は不明で、桐生六郎の思惑通りだったのかどうか分かりませんが、最悪の状況での行動は大いに興味が引かれます。









【次回のコラムも乞うご期待!】



▼前回【第13話】のコラムを見る▼

















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