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【県博テーマ展コラム】その10 『日光山縁起』 大ムカデ退治は「俵藤太物語」原型?


水野先生の短編コラム

当会顧問の水野拓昌先生にコラムを書いていただきました!



 


栃木県立博物館テーマ展『藤原秀郷とその末裔たち』(2025年2月22日~3月30日)の展示史料の中に『日光山縁起絵巻』があります。奥日光で日光山・日光二荒山神社の神・日光権現の化身・大蛇と上州・赤城山の神・赤城大明神の化身・大ムカデが戦い、日光権現に味方した小野猿丸が弓矢で大ムカデを退治する場面が描かれています。

藤原秀郷の伝説に関わる『俵藤太物語絵巻』と全く同じ構図です。


 

妙にかわいい大蛇と大ムカデの顔

 


『日光山縁起絵巻』では大蛇も目ん玉を射抜かれる大ムカデも、龍のような、犬のような妙にかわいらしい顔をしていて何とも魅力的です。

小野猿丸と秀郷の関係も不明ですが、「日光山縁起」の神戦譚と「俵藤太物語」は、大蛇と大ムカデが戦い、武芸に優れた勇者が大蛇を助けて大ムカデを退治するという物語の構図がそっくりです。その物語が秀郷の地元・下野にあるというのも奇妙な縁。すなわち、「日光山縁起」に秀郷との関係は見出せませんが、「俵藤太物語」の大ムカデ退治の源流ではないかという想像はできるのです。

時代的にどちらが先に成立したのかは不明ですが。



 

戦場ヶ原 日光と赤城の神が戦う

 


日光山縁起」はどんなストーリーか? 前半は公家・有宇(ありう)中将の貴種流離譚、後半が日光と赤城の神戦譚。有宇中将は日光権現となり、小野猿丸は有宇中将の孫です。

この神戦は奥日光・戦場ケ原(栃木県日光市)の地名の由来となり、日光山の神・日光権現は大蛇に、赤城山の神・赤城大明神は大ムカデに姿を変え、中禅寺湖の領有を争います。そして、日光権現を助けて大ムカデを退治した猿丸は日光権現に国を譲られて舞い歌います。これも中禅寺湖東岸「歌ケ浜」の地名の由来になっています。

また、日光二荒山神社中宮祠(ちゅうぐうし)で毎年1月4日に行われる恒例行事、「武射祭(むしゃさい)」はこの神戦を由緒としています。

小野猿丸は三十六歌仙の猿丸大夫とされていますが、猿丸大夫は実名も経歴も一切不明の人物です。

余談ですが、『今昔物語集』には、石川県輪島市の離れ小島を舞台に7人の漁師が大ムカデ退治をする物語があり、この形の物語が各地にあったことをうかがわせます。また、福島市の飯坂温泉には俵藤太の大ムカデ退治伝説があります。大筋は「俵藤太物語」とよく似たもので、秀郷以外の登場人物や舞台が当地に置き換わっているのですが。この地は秀郷子孫の信夫佐藤氏の本拠地です。

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