【会員寄稿コラム】栃木県は琉球王国の起源?⑪
- t-kojima12
- 4 日前
- 読了時間: 4分
2025年8月5日
栃木の武将『藤原秀郷』をヒーローにする会
会員 安延 嶺央

前回、次も喜界島と当時の日本の版図について書くと書いたのですが、最近の報道を踏まえ、足利政権と琉球について、琉球の史跡等を視野に書いてみたいと思います。
琉球の聖地に見る足利家の痕跡
ニュースを見ていると関税の話が報じられ、大統領や総理大臣がコメントしている場面をよく見ますが、貿易で利益を挙げることは国の重要事項であり、従ってその国の最高責任者の意向を大いに反映することは今も昔も同じです。
島国である日本にとって、交易の上で最重要の場所に位置する琉球も、源氏や足利氏の意向を強く受けてきたであろうことは想像に難くありません。
沖縄本島の南東端にある、知念岬の西側の海岸線には、ヤハラヅカサ、走水受水など、琉球の起源に関わるような古い聖地がありますが、その中に『ヤブサツの御嶽』もあります。
ここには神様が祀られていて、神名は、『ムメギヨラタチナリの御イベ』『タマガイクマガイの御イベ』だそうです。
今回はこの聖地遺跡について考えてみます。
御嶽の名前の『ヤブサツ』は『藪里(やぶさと)』、神名の『ムメギヨラタチナリの御イベ』は『梅清ら立ち成り』、『タマガイクマガイ』は『為谷・熊谷』でしょう。
結論から言うと、これらは足利将軍家に深く関係しているように思います。
また、前提として、琉球の南山王統は、1337年つまり建武の新政から足利氏の時代に移行した頃に開始し、察度王統は1350年、足利氏の分裂抗争である観応の擾乱の年に開始しています。
聖地の名前と足利氏の由来を読み解く
まず、『ヤブサツ=藪里』について、鎌倉幕府滅亡後、建武の新政が始まりますが、後醍醐天皇と足利氏がうまくいかず、戦いになってしまいます。その際、1336年1月建武政権の軍と足利尊氏の軍が京都で衝突した時に、建武政権の軍が布陣していたのが京都の一乗寺近辺、当時の地名で『藪里』です。さらに、同年6月には今度は足利尊氏側が『藪里』に布陣しています。つまり、『藪里』は足利氏にとって、勝利と政権確立の記念の地のようなものであるように思えます。
次に、神名、『ムメギヨラタチナリの御イベ』=『梅清ら立ち成り』です。
南北朝時代の歴史を記した軍記物に『梅松論』というものがあり、北野天満宮の参拝者に僧が語りかける内容で、結びの部分では足利将軍家の栄華を梅の花、子孫繁栄を松の葉に例えています。
北野天満宮といえば梅の花、足利将軍家と北野天満宮の繋がりは深く、代々の将軍と梅に関係する逸話もいくつもあります。それを踏まえての『梅清ら立ち成り』となれば将軍家の繁栄を願う意味でしょうし、『梅松論』の結びとも全く同じ趣旨になります。
もうひとつの神名、『タマガイクマガイ』=『為谷・熊谷』だと、為谷(為我井、為貝などの表記も)、熊谷はいずれも北関東の苗字で、『爲貝』さんは足利市に見られます。また、「熊谷」については、足利尊氏が建武政権と対立した時に足利氏側についた熊谷直経の熊谷氏がいます。
足利兄弟の分裂と琉球の政権交代
また、1350年に観応の擾乱が起きると琉球中山には察度王統ができているので、キーマンは足利尊氏ではなく弟の足利直義であるように思います。
成立当初の足利政権は、足利尊氏と足利直義兄弟の二頭体制で、実務はむしろ弟の直義が主に担っていたと言われますが、やがてこの兄弟は対立し、足利直義は一時南朝を後ろ盾とします。
それが1350年の観応の擾乱ですが、全く同年に琉球では察度王統が開始されています。つまり、初期足利政権が始まると南山王統が開始し、兄弟が対立すると察度王統が開始、南北朝合一すると察度王統はまもなく弱体化、滅亡しているのです。
南山王統は政権草創期に実務を担っていた足利直義主導で確立された足利氏の南方交易利権、察度王統は足利兄弟対立後に足利直義派が南朝側にもたらした南島交易利権の現地支店ということではないでしょうか?
その実行に那須氏や伊東氏が関与していたであろうことは以前書いたのですが、今回お話したとおり、貿易による国益の追求は今も昔も国政の重要事項なので、その当時の政権の動きを踏まえ考えることが肝要だと思います。
琉球史の中でも知名度の高くない察度王統と足利氏の関係、その実行体制、沖縄の地名に残る痕跡などについても、またの機会にお話したいと思います。
筆者プロフィール
安延 嶺央 (やすのぶ れお)
関東で育ち、関西で学び、沖縄に暮らしています。あるきっかけから歴史に関心を持ち、古代から中世の列島の歴史について調べるうちに、琉球王国には坂東武者が深く関わっていることを確信し、坂東武者について調べる中で坂東武士図鑑(※当HP)に巡り合いました。坂東武者と琉球の関係を綴っていきますのでよろしくお願いいたします。
▼ 「note」 でも栃木県と沖縄県をテーマにした記事を掲載中です
Comentarios