2025年7月11日

栃木の武将『藤原秀郷』をヒーローにする会

会員　戸室　直隆

こんにちは、藤原秀郷をヒーローにする会の戸室と申します。私の戸室という名字は下野佐野氏の分家であり、佐野市などに戸室という地名も存在しますので、藤原秀郷公の末裔の一人ということになります。今回は藤原秀郷が武士の名門でありながら、なぜ知名度が低いのかというテーマで考えていきたいと思います。

平将門討伐と秀郷流の名門化

結論から言ってしまえば、戦国時代に秀郷流から著名な戦国大名が出なかったことが、影響しているのではないかと思っています。

そもそも藤原秀郷をはじめとする秀郷流がなぜ名門になったか。それはなんといっても「平将門討伐」の功績でしょう。この功績により秀郷は従四位下を贈位されました。ほかにも百目鬼伝説やムカデ退治、秀郷流流鏑馬の成立など、秀郷は文化面でも貢献があり、その名声は坂東のみにとどまらず影響を及ぼしました。ここで「秀郷流ブランド」が成立したと言えるでしょう。

ところが平安時代末期になり、源平が争う「治承・寿永の乱」が始まるとブランドの輝きに陰りが見え始めます。知っての通り平氏と源氏が主役となりましたが、秀郷流をはじめとする藤原氏は平氏や源氏に匹敵する名声を残すことは出来ませんでした。

独立した大勢力だった秀郷流の奥州藤原氏は、源氏の勝利直後に奥州合戦で滅ぼされ、残りの一族は源平どちらかの戦力に組み込まれて戦うこととなりました。しかしそれでも、佐野源左衛門常世の「いざ鎌倉」が教科書にも載る名言になったり、吾妻鏡などに何人も秀郷流の武士が記載されたりしていることから、この時点ではまだ秀郷流は名門ではあり続け、そのブランド力は健在でした。

戦国時代の不在と衰退

そうすると秀郷流のブランドに致命的なダメージを与えたのは、やはり戦国時代かと思います。戦国時代はご存知の通り、数々の地方で様々な武将の活躍があった時代です。東日本だけで見ても、北条、武田、上杉、伊達、最上、南部など数多くの名前が出てきます。この中で武士の名門である秀郷流はどれだけいるでしょうか。なんと1人もいません。それどころか全国に対象を広げても、秀郷流は1人もいません。

戦国武将を①天下統一級、②複数の律令国級、③単一の律令国級、④律令国の一部級にクラス分けをした場合、下野国においても秀郷流は小山氏、佐野氏、長沼氏、結城氏など④になって始めて出てくるレベルでしかありません。室町時代に入るまでの小山氏や長沼氏、結城氏は鎌倉公方を守護する関東八屋形に任命される名門でしたが、室町時代は弱体化の一途を辿りました。

大友宗麟などの大友氏は秀郷流の可能性があるとも言われますが、清和源氏や、利仁流など別系統の藤原氏である説もあり、確実とは言えません。伊達政宗の伊達氏も秀郷流という説もあるようですが、自称は魚名流の一派、山蔭流となっています。他には太田氏も秀郷流と言われますが、太田道灌を輩出した太田氏は清和源氏系であり、秀郷流太田氏とは別になります。

戦国ブランドの影響は非常に強く、著名な戦国武将は地元をはじめとする多くの人に人気で、現代に至ってもブランドは健在です。

こうして戦国時代という多くの著名人を輩出した時代に名を上げることが出来なかった秀郷流は、名門でありながら認知度が低下していきました。流鏑馬なども小笠原流や武田流が主流となり、秀郷流は衰退していきました。

そして下剋上である戦国時代が終わり、徳川幕府が成立すると武士の身分は固定化され、戦で名声を上げる機会はなくなってしまいました。その系譜が再び大きな脚光を浴びるまではいきませんでした。

秀郷流の血脈は絶えず

もっとも、戦国時代においても秀郷流の血筋を引く人物がまったく名を残さなかったわけではありません。たとえば、会津92万石の大名として知られる蒲生氏郷は、戦国末期に豊臣秀吉に仕え、伊達政宗と対峙した秀郷流の名将であり、文化人・キリシタン大名としても高い評価を受けています。同じく秀吉に仕えて土佐一国を治めた山内一豊や、その子孫で幕末に活躍した山内容堂の土佐山内氏も大名として有名でしょう。

また先述の結城氏も、秀郷流小山氏の流れを汲む名門であり、戦国時代には陰りが見えていたものの、徳川家康の次男・結城秀康がその家督を継いだことで、家名は近世にも受け継がれました。

さらに、戦国時代では小勢力だったものの巧みな交渉で生き残り、その後の江戸幕府の譜代大名となった皆川広照は秀郷流長沼氏の系統ですし、上杉謙信を唐澤山城で苦しめた佐野昌綱を始めとする佐野氏も、戦国の動乱を生き抜き、最終的には江戸幕府の旗本となりました。

こうした人物たちは、戦国時代の「天下取り」には直接関わらなかったものの、秀郷流の名が完全に歴史から消えたわけではありません。ただ彼らの活躍が「戦国ブランド」の中では広く認知されるには至らず、江戸時代後の明治、昭和と軍人が活躍する時代においては東郷平八郎や乃木希典、山本五十六、栗林忠道など数々の名将が出ましたが、もはや出自や系譜が影響する時代ではなく、秀郷流の知名度の状況に変化をもたらすことはありませんでした。

結果的に戦国時代が終わってから現代に至る400年を経る過程で、秀郷流全体としての知名度は限定的なものとなってしまいました。握っていた頃の日本から派生した、興味の尽きない地域でもあります。

歴史をつなぐ思いとこれから

以上のように藤原秀郷の知名度が現代で低い理由を考えてみましたが、いかがだったでしょうか。秀郷流に限らず、利仁流などの他の藤原氏や、橘氏など、戦国時代に名を上げられなかった一族は他にもいます。歴史の陰に追いやられた彼らですが、時々関心を持ってみるのはいかがでしょうか。

それに秀郷流は私を含め、現在でも確実に生き残っていますし、最近歴史や東京の亀戸香取神社が「スポーツ振興の神」として世界的なアスリートたちも参拝に訪れたりするなど、少しずつ秀郷への注目が復活してきている気もします。もしかしたら未来に再び秀郷流が脚光を浴びる時代が訪れるかも知れません。私も秀郷流の一人として、その名に恥じぬ生き方をしてきたいと思います。

筆者プロフィール

戸室　直隆（とむろ　なおたか）

東京都出身。

私自身は母方の八王子出身ですが、父の代まで先祖代々、葛飾柴又に住む家系です。江戸時代初期に新田の開拓民として柴又に移住してきましたが、それ以前は下野佐野氏から分家する家臣団であり、更に辿ると藤姓足利氏、そして藤原秀郷へとたどり着きます。

ただ家系図などは残っておらず、古い家系過ぎて由来が全く不明になっていたため、10年前に先祖調査をはじめ、上記の歴史を調査・発見したのが藤原秀郷を知るきっかけでした。この調査の流れで「『藤原秀郷』をヒーローにする会」にも参加し、継続して勉強させていただいています。

将来的には東京でも活動したり、会を通じて秀郷流の家系図を調査してまとめしたりしたいなと思っていますので、興味をお持ちいただけたらお声がけいただけると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。