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【最終回】「いざ鎌倉」坂東武士の見本・佐野源左衛門 「鉢の木物語」の実はシニカルな結末(2023年1月20日 投稿)




水野先生コラム:31回目

ライター:『鎌倉殿と不都合な御家人たち 「鎌倉殿」の周りに集まった面々は、トラブルメーカーばかり?』(まんがびと)『小山殿の三兄弟』(ブイツーソリューション)、『藤原秀郷』(小学館スクウェア)著者・水野拓昌



昨2022年1月に始まった小山3兄弟、鎌倉時代の秀郷流を紹介するコラムも最終回。今回は、秀郷流の佐野氏を主役とした「鉢の木物語」を紹介します。坂東武士の精神を象徴する「いざ鎌倉」の物語です。しかし、あまり知られていない結末には意外な展開が待っています。



■講談の定番「鉢の木物語」とは

主人公・佐野常世は通称「源左衛門」の方がよく知られています。「鉢の木」は謡曲や能の演目、そして何といっても講談の定番中の定番として語り継がれてきました。

大雪の夕暮れ、佐野源左衛門の屋敷に旅の僧が宿を求めてきます。屋敷はたいそう貧しく、囲炉裏にくべる薪(たきぎ)さえないありさま。それでも大切にしていた鉢植えの梅、松、桜を火にくべて、旅の僧侶のために暖を取ります。

それでも槍や古びた兜、鎧もあり、ただの百姓ではなさそうだと、問いかける僧に対し、源左衛門は一族に所領をだまし取られ、落ちぶれたが、武具と馬だけは残してあるといい、静かな口調で秘めた決意を示します。

「自分も鎌倉武士。今は困窮しているが、鎌倉大事のときは、いの一番に駆けつけて命懸けで奉公する覚悟です」

あるとき、鎌倉危急の知らせがあり、佐野源左衛門は一目散に鎌倉を目指します。しかし、これは御家人の忠誠心を試す、いわば抜き打ち訓練。そして、真っ先に駆け付けた源左衛門が北条時頼の前に召し出され、褒められました。源左衛門の目の前にいたのは何と、あの旅の僧だったのです。


■舞台は栃木・佐野か群馬・高崎か

佐野源左衛門には鉢の木にちなみ、加賀・梅田荘(石川県金沢市)、上野・松井田荘(群馬県安中市)、越中・桜井荘(富山県黒部市)が与えられました。

北条時頼は1256年(康元元年)、病気などもあり、30歳の若さで出家、執権職を義兄・北条長時に譲ります。嫡男・時宗(8代執権)はまだ幼く、中継ぎが必要だったのです。北条長時は7年ほど執権を務め、北条時頼は出家後も実権は保っていました。「鉢の木物語」にみられる僧の姿で諸国を回るのは、あくまで伝説のようです。

なお、「鉢の木物語」の舞台は、上佐野の地名がある群馬県高崎市となっていることが多いようです。高崎市には佐野源左衛門常世の屋敷跡とされる常世神社があります。古い記録では、佐野基綱に嫡男・国綱と次男・景綱がおり、景綱が上野国佐野を領有したようです。景綱の後は常春、常世と続き、常世は一族との所領争いで没落して浪人に。祖父・景綱の故郷、下野・佐野に移りました。

一方、佐野氏の本拠地・栃木県佐野市にもゆかりの場所、伝説があります。佐野市の市街地の北側、旧葛生町が伝説の舞台で、「鉢木町」という地名もあり、「佐野源左衛門常世の墓」がある願成寺に物語が伝わっています。


■知りたくなかった…その後の源左衛門

願成寺に伝わる「鉢の木物語」は、旅の僧をもてなす場面の前段があります。佐野源左衛門常世は佐野の生まれ。継母との確執による出家、宝治合戦の難を逃れた三浦泰村の娘・白妙との出会い、継母の看病と還俗など、ストーリーはよりドラマチックになっています。旅の僧に姿を変えた北条時頼との出会いは1253年(建長5年)初めとされ、「いざ鎌倉」の褒美としては、梅、松、桜の荘園のほかに本領の下野36ヶ郷を取り返すことができ、小田原城まで与えられました。

さらに、講談などでは語られない後日談があります。

多くの所領を得て、貧困から脱した佐野源左衛門。1254年(建長6年)5月7日、三浦氏の遺族を訪ねる途中、増水した川を小舟で渡ろうとします。家来は危険だと言って尻込みしますが、源左衛門は「これくらいが怖くて戦に出られるか」と渡河を強行。ところが、岸に着く直前に濁流に飲み込まれてしまいます。源左衛門の遺体は見つかりません。

また、小田原の縁者を訪ねた帰路、増水した川に馬で乗り入れ、水死したという昔話もあります。このシニカルな結末は「知りたくなかった」としか言えません。

最後の最後に後味の悪いオチ。「お後がよろしいようで」…とはいかない不思議な話なのです。


【次回のコラムも乞うご期待!】


▼前回【第30話】のコラムを見る▼


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