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【第10話】捕虜の身で頼朝を叱った秀郷の子孫とは?(2022年5月21日 投稿)



水野先生コラム:10回目

ライター:『小山殿の三兄弟』(ブイツーソリューション)、『藤原秀郷』(小学館スクウェア)著者・水野拓昌



1180年(治承4年)10月、富士川の戦いで平家軍に不戦勝した源頼朝は、すぐさま平家追討の戦いを始めるわけではなく、ひとまず関東に腰を据えます。上総広常ら宿老の「まず東国を平定していから」という忠告に従ったのです。

翌11月、頼朝は常陸の佐竹秀義を攻めます。






■頼朝の敵は同族源氏…佐竹・金砂城攻め


佐竹秀義は金砂城(茨城県常陸太田市)に立て籠もります。一方、兄・佐竹義政は上総広常の誘いに乗って常陸国府付近(茨城県石岡市)に参上。ところが、大矢橋という所で広常に謀殺されました。


上総広常は、橋の中央に佐竹義政一人を呼び寄せ、素早く殺害したのです。頼朝の軍勢は金砂城攻めに苦労しますが、これも広常の作戦で佐竹秀義の叔父・佐竹義季を味方に引き入れ、金砂城の裏手に回って攻め、佐竹勢を敗走させました。


関東の地固めを急ぐ頼朝に攻められた佐竹氏ですが、源義光の子孫で、源氏の名門です。頼朝の敵はまず同族の源氏だったのです。


源平合戦といいますが、トップが源氏と平氏であり、オール源氏対オール平氏というわけではありません。頼朝としては関東の武士の頂点に立つため、源氏の中で特別の地位を確保しなければならないという問題もあります。実際にこの後も頼朝は源氏名門の武家を粛清していきます。


と、したり顔で解説したくなりますが、考えてみれば変な理屈です。実は当時も、源氏同士で戦う頼朝の矛盾をズバリ指摘する声がありました。逮捕された佐竹残党の兵です。






■源氏同士で戦う頼朝をとくとくと諫めた捕虜



生け捕りになった佐竹残党の中に顔を伏せて泣いている男がいました。頼朝が理由を問います。


「死んだ佐竹(義政)のことを思うと、首がつながっていてもどうしようもありません」


頼朝「そう思うなら、佐竹が誅殺されたとき、なぜ自害しなかったのか」


「主人が殺されたとき、われわれは橋の上に行けませんでした。一人主人だけが橋の上に呼び出されて首を取られ、後日のことを思って逃亡しました。(頼朝に)拝謁がかなえば、申し上げたいことがあるからです」


頼朝「それは何か」


「平家追討を差し置いてご一族(佐竹)を滅ぼすとは、はなはだおかしなことです。平家に対して一致して力を合わせるべきです。それなのに過失のない一族を討つとは、御身の敵は誰に命じて退治されるのでしょうか。ご子孫は誰がお守りするのでしょうか。これでは、人々はただ恐れるだけで心から服従することはないでしょう」


敵の捕虜となりながら堂々と直言。どうせ斬られるのなら…といった開き直りでしょうか。上総広常はこの男を即刻処刑すべきと言いますが、頼朝は男を許し、御家人に加えました。この男は岩瀬与一太郎といいます。



■岩瀬与一太郎は秀郷流。鎌倉に足跡残す


佐竹氏家臣だった岩瀬与一太郎とは何者なのでしょうか。史料では『吾妻鏡』1180年11月8日の名場面以外に手掛かりがありません。


岩瀬というと、茨城県桜川市の一部が旧岩瀬町であり、その近辺の有力者が岩瀬を苗字とし、岩瀬与一太郎につながると想像でき、そうした説もあるようです。しかし、茨城県常陸大宮市上岩瀬、下岩瀬あたりに岩瀬与一太郎にまつわる伝承や居館跡とされる城跡があります。


藤原秀郷の子孫、藤原公通が常陸・太田郷(茨城県常陸太田市)に居住し、その三男・通近が倭文(しどり)郷の岩瀬(茨城県常陸大宮市)に住んで岩瀬を名乗ったのが岩瀬氏の始まりというのです。すなわち、岩瀬与一太郎は秀郷流の武士です。史料の少ないマイナーな武士ですが、これこそが秀郷流の奥深さ、バラエティーに富む多様さです。


岩瀬与一太郎の頼朝に対する直言は効き目があったのか、佐竹討伐は終了。佐竹秀義は後に頼朝の配下に収まります。奥州合戦(1189年)に出陣し、子息も承久の乱(1221年)などで戦功を挙げています。


御家人になった岩瀬与一太郎も鎌倉に足跡を残します。

鎌倉の五所稲荷神社は建久年間(1190~1198年)に岩瀬与一太郎義正が創建したとされています。この地は鎌倉市岩瀬で、岩瀬与一太郎がこの地を治めたことが地名の由来です。






【次回のコラムも乞うご期待!】




▼前回【第9話】のコラムを見る▼

















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