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【第8話】富士川の戦い、知られざる小山朝政の活躍?(2022年4月30日 投稿)



水野先生コラム:8回目

ライター:『小山殿の三兄弟』(ブイツーソリューション)、『藤原秀郷』(小学館スクウェア)著者・水野拓昌



1180年(治承4年)10月、源頼朝挙兵の2カ月後、源平本隊の対決、富士川の戦いがありました。水鳥の羽音に驚き、平家遠征軍が戦わずに逃げたというエピソードが有名です。実は、この平家の敗走に小山朝政が関わっている可能性があるのですが、ほとんど知られていません。知られざる小山朝政の活躍とは?




▼源平合戦 一連の流れ




■源平両軍激突を吹き飛ばした「水鳥の羽音」


平清盛が送った頼朝追討軍はそうそうたるメンバーで、総大将は平維盛。清盛の孫です。清盛長男・重盛の長男で22歳の若武者(『平家物語』では23歳)。副将に平忠度(清盛の異母弟)と平知度(清盛の七男)。参謀役の侍大将に藤原忠清。忠清は藤原秀郷の子孫。保元の乱(1156年)に出陣した清盛の信任厚い老武者です。


富士川を挟んで源平両軍対陣。現在の静岡県富士市あたりです。しかし10月20日、富士川西岸に陣を張っていた平家軍が突如撤退します。『吾妻鏡』によると、武田信義の軍が平家の背後を襲おうとしたところ、沼の水鳥が一斉に飛び立ち、その大きな羽音に平家が驚き慌てたのです。


なお、武田信義は平家勢と戦って甲斐、駿河を手中に収めようとしているところ。『吾妻鏡』でも『平家物語』でも頼朝との連携が強調されていますが、頼朝とは別に平家と戦い、独自の勢力づくりを進めていました。頼朝にとって味方ながら油断ならない相手ともいえます。


『平家物語』での富士川の戦いは日付が違い、10月23日ですが、もう少し面白い話になっています。弓を取る者矢を取らず、矢を取る者弓を取らずといった混乱ぶり。他人の馬に乗る者、杭につないだままの馬に乗って杭の周りをぐるぐる回る者もいるありさま。平家、藤原忠清を笑う落書も載っています。






■延慶本『平家』では、平家軍の中に小山朝政?



この場面、延慶本『平家物語』にあまり知られていない一文が加わっています。「在京していた関東の武将が平家に従っていたが、小山朝政以下、源氏に加わってしまった」というのです。


小山3兄弟の長男・小山朝政。このとき、平家の軍にいたのでしょうか。

頼朝挙兵のころ、大番役(内裏などの警備)で京にいたとすれば、10月2日に母・寒河尼と元服前の弟・朝光だけが頼朝のもとに駆け付け、肝心の朝政の動向が不明なこととつじつまが合います。このとき小山にいなかったのです。


こうした地元を離れていた関東の武将が平家側から源氏側に一斉に寝返ったと読めるのが延慶本『平家物語』。しかも具体的に名が書かれているのは小山朝政だけです。















■そもそも延慶本『平家物語』とは?


そもそも延慶本『平家物語』とは何でしょうか。実は『平家物語』といってもいろいろあります。書き写された数多くの写本はそれぞれ話の内容が少しずつ違っています。これは写し間違いだけではなく、意図的な内容の改変、加えられた部分、削られた部分があるのです。

大きく分けて琵琶法師が伝えた「語り本」の系統と関東の武士の動向も詳しく書かれた「読み本」の系統があります。今、代表的な『平家物語』として扱われているのは「高野本」といわれる写本です。「朧月夜」などの作詞者で国文学者の高野辰之が持っていたので「高野本」。今は東大国語研究所が所蔵しています。これは南北朝時代の琵琶法師・明石覚一がまとめた「覚一本」の流れ。つまり「語り本」の系統です。一方、「読み本」の系統には『源平盛衰記』があり、これはよく知られたエピソード満載で、タイトルすら『平家物語』から離れてしまっています。


「延慶本」も「読み本」の系統。延慶年間(1308~11年)に根来寺で書き写された本が元といわれる写本です。『平家物語』の元々の内容に近いとみられています。

だからといって書かれた内容が真実に近いかというと、それはまた別の問題ですが、小山朝政の平家軍からの離脱は注目しなければなりません。このときの小山朝政の動きは、真実としても活躍というわけではありませんが、平家敗走の原因そのものだからです。


小山朝政以下の関東武士(坂東武者)が抜け出したことで平家遠征軍は戦線を維持できなくなった、このまま戦うと負けるし、味方がどんどん離れてしまう、夜のうちに退却しようと、この方が平家敗走理由としては現実的です。


「水鳥の羽音」はその中で起きたことの誇張、平家退却の話を面白くする演出とみた方がすっきりします。




▼前回【第7話】のコラムを見る▼

















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