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【第19話】頼朝に秀郷流武芸を伝えた西行法師、鎌倉での出会い(2022年11月5日 投稿)




水野先生コラム:19回目

ライター:『鎌倉殿と不都合な御家人たち 「鎌倉殿」の周りに集まった面々は、トラブルメーカーばかり?』(まんがびと)『小山殿の三兄弟』(ブイツーソリューション)、『藤原秀郷』(小学館スクウェア)著者・水野拓昌



1186年(文治2年)8月15日、鎌倉の鶴岡八幡宮で源頼朝西行法師が出会います。西行法師は秀郷流の名門武家・佐藤氏出身で、出家前の名は佐藤義清(のりきよ)。頼朝は御所に西行法師を招き、語り明かします。いったい、どんな話をしたのでしょうか。





■ 奥州行きの途中に鎌倉に寄った西行


西行法師はこのとき69歳の高齢。出家から46年が経っています。

佐藤氏は藤原秀郷の子孫で代々、左衛門尉(左衛門府の3等官)に就いている京武者。西行法師(佐藤義清)も鳥羽院を護衛する北面武士を務め、同い年の平清盛とも同僚だったはずです。

このときは2度目の奥州行きとみられます。藤原秀衡に東大寺再建のための寄付を求め、奥州・平泉への旅の途中でした。鶴岡八幡宮でうろうろしているところを参詣にきていた頼朝に見つかったのです。偶然の出会いのようですが、実は、頼朝の参詣を十分予想し、鶴岡八幡宮で待ち構えていたとも考えられるのです。

この8月15日は、翌年から鶴岡八幡宮で放生会(ほうじょうえ)の流鏑馬が始められます。放生会は殺生を戒める仏教行事。頼朝は信心深く、1180年(治承4年)の挙兵の際、決行日が宗教的に重要な日と重なることを案じたり、挙兵後は日課としていた読経ができないので、妻・北条政子に仕える尼に代読を頼んだりしたほどです。

この日、頼朝が鶴岡八幡宮に参詣したのは西行法師が睨んだ通りの展開だった可能性があるのです。


■夜を徹して語り明かした西行


頼朝は御所に西行法師を招き、和歌と武芸について尋ねます。西行法師が秀郷流名門・佐藤氏出身であることを十分に意識していたのです。これに対して、西行法師は「武芸については出家したときに秀郷以来伝えてきた兵法の書を燃やしてしまい、罪業の原因となるので全て忘れてしまいました。和歌は心の感動に従って三十一文字(みそひともじ)に作るばかりで全く奥深いことは知りません。そういうわけで武芸についても歌道についても話すことはありません」

ところが、頼朝と西行法師は夜を徹して語り合ったのです。「話すことはない」とは、一応謙遜をしてみただけの前フリだったようです。

そしてちょうど1年後に鶴岡八幡宮の流鏑馬が始まり、1190年(建久元年)からは放生会と流鏑馬を2日間に分けるほど大きな行事になりました。流鏑馬開催に当たって頼朝が気にしていたのは秀郷流武芸。頼朝が西行法師に聴きたかったのは、秀郷流の流鏑馬ルール、秀郷流武芸だったようです。


■50年後に明らかになった会談内容


このときの頼朝と西行法師の会談内容は、世代も代わった半世紀も後になって判明します。実は相当、細部にまでわたって話をしていたのです。

1237年(嘉禎3年)7月19日、北条時頼(5代目執権)が流鏑馬の練習をしたとき、祖父・北条泰時(北条義時の長男。3代目執権)が弓の名人である海野幸氏に「時頼の弓にまずい点があったら指導してくれ」と頼みます。

海野幸氏は時頼の弓を褒めますが、泰時は重ねて指導を求め、幸氏は51年前の頼朝と西行法師の武芸談議を披露します。

頼朝の前で「弓を一文字(水平?)に持つ」ことに皆が同意したとき、西行法師が「一文字ではなく、拳より押し立てて引くように持つ」と説き、「確かにその方が速く射ることができる」とほかの者も納得したというのです。

このときの頼朝と西行法師の武芸談議に同席していたのは、下河辺行平、工藤景光、和田義盛、望月重隆、藤沢清親、金刺盛澄、愛甲季隆といった面々。ただし、金刺盛澄は元平家の家臣で、翌年1187年(文治3年)の流鏑馬で妙技を披露して許されるはずなので、ここでの登場は不自然なのですが……。

海野幸氏はもともと木曽義仲の家臣で、義仲の嫡男・義高と同世代。義仲と頼朝が敵味方に別れたことで、鎌倉の人質だった義高は頼朝に殺されますが、義高に従っていた海野幸氏はそのまま頼朝の家臣に転じました。特に弓の腕前を高く評価されていました。

その海野幸氏をはじめ武芸達者な武士が同席していた頼朝と西行法師の武芸談議。捨てたと言いつつ、秀郷流武芸を密かに継承していた西行の「特別講義」は鎌倉武士に大きな影響を残していたのです。



【次回のコラムも乞うご期待!】


▼前回【第18話】のコラムを見る▼

















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