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プロローグ
「マオ、なにをぐずぐずしておる!早うしたくをせぬか!」
わたしよりずっと小さな子どもの声で、それも男の子か女の子かもわからない、ちょっとかん高くてかわいらしいトーンのくせに、上から目線で呼びかけてくるのは…………小さな龍だった。そう龍、西洋風に言えばドラゴンてやつ。
緑がかった金色のウロコにおおわれた細長い体は、長さが五十センチくらい。でも、ヘビじゃない。鋭いツメの手足が四本、ちゃんとついてる。かといって、これはトカゲじゃない。だって、ギョロリとした目の後ろには、シカみたいに枝分かれした角が生えてるし、長細い顔の先にある鼻のすぐ横からは、二本のヒゲが角のあたりまでにょろ〜んと 伸びているんだもの。
この姿かたちは、日本に伝わる龍にそっくりだ。大きな神社とかお寺にある絵や彫刻で見たことがあるもん。
絵本や童話で読んだ西洋の龍、〝ドラゴン〞は、大きなつばさがあったり、口や鼻から火をはいたりして、トカゲを大きくした怪獣のイメージがあるんだけど、わたしの目の前にいる龍はどちらかと言えばヘビの方に近い。こういうのを和龍っていうのかしら?
まあどっちにせよ、当の本人も「龍だ」って言ってるんだから、これは夢でも幻でもなく、伝説上の生き物が存在してるって現実をはっきり認めるしかないんだよ。
ただし彼、わたしは「トウタ」と呼んでるんだけど、トウタは龍そのものじゃない。
トウタは、マイ守護神。
元々は大昔の日本に実在した「フジワラノヒデサト」っていう名前の武人だったの。
ん?意味不明?
そりゃそうよね。
ちゃんと最初から、わたしとトウタが出会ったきっかけから話さなきゃ…… 。
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